研究概要 |
エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)法を主たる測定手段とし,溶液内各種平衡反応を直接観測することを目的として,(1)非水溶媒中における,ジ(アルキルアンモニウム)ポリメチレン塩(MX_2)のイオン会合平衡:M^<2+>X^-【double half arrows】MX^+,ならびに(2)スルホフタレイン系pH指示薬(H_2In)の第二解離平衡:HIn^-【double half arrows】H^+In^<2->の定量的観察,(3)モリブドリン酸錯体の生成・還元過程の定量的観察,(4)クロム(III)アミノ酸錯体の配位子置換反応の観察について検討した。 (1)および(2)については,イオン化に際しての脱溶媒温度の影響について検討した結果,加温せずに常温で測定することによって,加熱濃縮操作に伴うイオン会合の進行を抑えることができた。しかし,イオン化時の平衡の移動を完全には抑制できなかったため,最終的には,基準物質を共存させて測定し,相対的な強度を見積もることを試みた。(2)については,測定対象とする各指示薬の構造が似ているため,解離定数既知の指示薬と,未知の指示薬を共存させて測定することによって,未知の指示薬の解離定数を見積もることができた。しかし,(1)に関しては,特に陰イオンの溶媒和特性の違いによる影響が大きいため,妥当な値を得ることはできなかった。 (3)については,水溶液中で,青色の還元型モリブドリン酸錯体を生成させ,テトラブチルアンモニウム塩として沈殿分離した後,分離カラムや溶離液などの分離条件を変えながら液体クロマトグラフ分離を検討したところ,アミノ基修飾シリカゲルカラムを分離カラム,塩を含むジメチルホルムアミドを溶離液とすることによって,いくつかの化学種が分離されることを明らかにした。分離ピークのESI-MSによる同定,ならびにフロー電解による還元電子数の決定については,未だ確立しておらず,今後の検討課題となっている。イオン化時の酸化還元の可能性についてもボルタンメトリー的手法も適用して定量的な検討を加えつつある。(4)については,配位子置換後の錯体を再現性よく検出するための,より適切な測定条件について,検討中である。
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