研究概要 |
本研究では,blestriarene C(2,2',7,7'-テトラヒドロキシ-4,4'-ジメトキシ-1,1'-ビフェナンスレン)およびその類縁体をエステル基を活性化基とする芳香族求核置換反応を鍵として合成し,これらの蛍光灯照射下における光ラセミ化について詳細に調べた。また,1,1'-ビナフタレン類の光ラセミ化,ラセミ体blestriarene Cの脱ラセミ化の可能性についても検討した。 blestriarene Cは,^1L_b吸収帯の光を吸収してラセミ化することがわかった。また,窒素下ではラセミ化速度は著しく低下し,ラセミ化に酸素が関与していることが示唆された。blestriarene Cの4,4'-メトキシ基または7,7'-水酸基がない類縁体は光ラセミ化せず,7,7'-ジイソプロポキシ誘導体,4'-メトキシ基および7'-水酸基がない非対称ビナフタレンは容易にラセミ化した。これらの類縁体の酸化還元電位をサイクリックボルタンメトリー(CV)により求め,ラセミ化活性との相関を調べたところ,酸化還元電位が低い化合物ほどラセミ化しやすいことがわかった。これらの知見から,blestriarene Cが光照射下に酸素により一電子酸化されて得られるラジカルカチオンを中間体とするラセミ化機構を提案した。また,一つのナフタレン環に2つまたは3つの水酸基またはメトキシ基を持つ1,1'-ビナフタレン類はラセミ化しなかった。CV測定の結果,これらは,可逆的な酸化還元挙動を示さず,このことがラセミ化しない原因と考えられた。
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