研究概要 |
有機化合物の結晶化によ分子情報を記録し,この有用な情報を溶液系での多様な反応に展開する新しい分野を開拓した。特にアキラルな基質のキラル結晶化により生じた不斉分子情報を均一系での不斉反応へと応用し新規絶対不斉合成を開発した。 o-二置換置換芳香族アミドはsp^2平面構造の窒素原子を有し,アミドの回転がラセミ化に相当する。さらに窒素原子上の置換基や隣接した置換基を選択することにより,ラセミ化速度の制御も可能である。これらのアミドが自然晶出により不斉結晶を形成すると,溶解後でも分子不斉を保持することが可能であり新たな不斉誘導へと展開できる。我々は種々のナフトアミド誘導体を合成しキラル結晶化を検討した。その中で2-位にメトキシ基を導入したpiperidineのナフトアミドが空間群P2_12_12_1の不斉結晶を形成することを見出した。アミド結合はナフタレン環に対してほぼ直行した(101.6・)捻れた構造を有していた。 このアミドは室温で容易にラセミ化が進行しHPLCなどによる分割は不可能であった。このラセミ化速度を求めるために,鏡像体の結晶を種々の低温のTHFに溶解し,CDスペクトルを測定すると対応するCotton効果が観測された。さらに時間経過とともに徐々に減少していく様子も観測できた。そのラセミ化の半減期は13.4分(15℃),20.2分(10℃),35.8分(5℃)であり,結晶化により記録された不斉分子情報を低温では長時間記憶していることを見出した。 アミドの不斉結晶を低温で溶解させ,保持されている不斉分子配座とジエンやアントラセンとの不斉光付加反応を検討した。-20℃〜-40℃に冷却したジエンやアントラセンのTHF溶液に不斉結晶を溶解させ,超高圧水銀灯にて光照射した。4+4付加物と2+2付加物ともに光学活性体として得られ,新しい絶対不斉合成に成功した。
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