研究概要 |
近年、有機強磁性体や有機超伝導体に関する研究が多くの注目を集め、前者では20種、後者では80種に及ぶ例がこれまで見いだされている。しかしながら、強磁性と超伝導性の両機能を併せ持つ分子性強磁性超伝導体はこれまで見出されていない。本研究においては研究代表者の向井がこれまで詳細な磁性研究を行なって来た、安定フェルダジルラジカル(1,3,5-Triphenyl-verdazyl,1,5-diphenyl-3-phenyl-6-oxoverdazylなど)をスピン源とし、導電性分子(TCNQ、Me_2TCNQ、Ni(dmit)_2^-、Pd(dmit)_2^<2->など)との組み合わせによる分子性錯体を合成し、伝導性・磁性の複合機能を有する新しい分子性超伝導・磁性体、特に、初めての純有機強磁性・超伝導体の開発を目指した研究を行なった。本研究では、 1.まず、これらのフェルダジルラジカルに正電荷を持った置換基を導入した分子(3-(4- and 3-Methylpyridinium)-1,5-diphenylverdazyl(p- and m-MePyDV))など、多くの分子の合成を試みた。 2.次に、Verdazylカチオンラジカルと電子受容体アニオン([TCNQ]^-、[Me_2TCNQ]^-、Ni(dmit)_2^-、Pd(dmit)_2^<2->など)との反応により、先ず、(1:1)錯体を、更に、その酸化などにより(1:2)、(1:3)錯体結晶([p-MePyDV]^+[TCNQ]_2^-、[p-MePyDV]^+[Me_2TCNQ]_2^-、[1]^+[Ni(dmit)_2]_3^-、[1]^+[Pd(dmit)_2]_3^-、など)の合成・単離に成功した。 3.合成した分子性錯体の、磁化率、ESR、電気伝導度の測定、結晶構造解析を行ない、10種に近い新しい純有機常磁性・半導体と分子性常磁性・半導体を得る事に成功した。強磁性・超伝導体を得るには至らなかったが、このような磁性と伝導性の両機能を同時に有する分子性化合物の例は大変限られて居り、本研究で得られた結果の意義は大きい。
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