研究概要 |
圧力下で示す多彩な物理現象にもかかわらず,分子性伝導体・磁性体の常磁性磁化率は10^<-4>〜10^<-3>emu/mol程度と小さいので,圧力下での磁性研究はほとんどおこなわれていなかった.本研究で加圧に使う器具の材質や測定手順を工夫することによって,0.5GPaまでの圧力領域で,10^<-4>emu/mol台の磁化率の温度変化を精度よく測定することに成功し,これを[Pd(dmit)_2]塩の圧力下磁性研究に適用した.一連の[Pd(dmit)_2]塩は,三角格子上で量子スピンがフラストレートしていることに由来する新規の相転移現象が,対陽イオンの変化に応じて見つかっており,並行しておこなった常圧下の[Pd(dmit)_2]塩の磁性研究では,軌道-二量体の歪み-電荷移動が協力して起きる価数不安定性,空間異方性が引き起こす反強磁性秩序,およびスピン一重項対の整列転移を本研究で発見し,相転移機構を解明してきた.圧力下でこれらの現象の解明をさらに進めることを目的として,磁性測定をおこなった.その結果,P2_1/m相のEtMe_3P塩では,圧力下でバルク超伝導が観測されることを明らかにした(0.2GPaでT_c=5K).この超伝導は,スピン一重項対の整列状態の近傍に現れるので,その発現機構が従来のものとは異なっていることが示唆される.また,圧力によってモット絶縁体が金属に転移する際には,磁化率に目立った変化が現れないことを示した.このことは,金属状態になっても電子が強く相関している状態にあることを意味している.
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