研究概要 |
研究計画に沿って研究を行い下記のような成果を得ることができた. 研究発表の1番目の論文では,モデルに年齢構造のポピュレーションダイナミクスを導入し,時間変数について離散化したモデルを構築し,それに対して日本赤十字社の輸血部門によって得られたHTLV-Iの統計データとの有意の一致を確認できた.これによりHTLV-Iの母子感染予防の為の公衆衛生上の政策立案に強力な数値計算ツールを提供することができた.研究発表の2番目の論文では,効用がエージェント密度の線形関数である場合と上に凸な2次関数である場合に,それぞれの移動現象を記述するABMを構築した.これらのモデルは,人口移動を表すマスター方程式にマイクロ・ファウンデーション(ミクロ的な理論的基礎)を与えるABMであると考えることができる.SLの計算方法を適用して,時間変数とエージェントの総数が無限大になった場合に,モデルがどのような漸近挙動をするのかを調べ,それぞれが定常状態に確率密度収束することを証明した.研究発表の3番目の論文においては,人口移動理論に現れるマスター方程式の解を,研究代表者の工夫による有限クラマース-モイヤル展開することにより,人口移動に必要なコストが十分に大きい場合に,フォッカー-プランク方程式の解と非常に近いことを証明した.境界条件としては周期的境界条件を仮定している.この論文によって,人口移動理論における2つの重要な理論であるWeidlich-Haagの人口移動理論とHotellingの人口移動理論の整合性を数学的に厳密に証明することがでた.
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