研究概要 |
地下き裂同定は,基本的には,フィールドで観測された弾性波のフーリエ像空間のピーク周波数と,理論的に予測される地下き裂の固有振動モードの周波数とを比較して行う.これまで研究代表者らは,内部を流体で満たされたき裂の動特性に関する理論的研究を実施し流体の圧縮率や岩体の弾性係数等の効果を定量的に明らかにしてきた.2年継続の初年度では,まず,岩体内き裂の周囲に損傷域が存在する場合を想定して,岩体実体波の位相速度が小さい場合の検討を行って,人工き裂周りの損傷域の影響を調べた.次に,円板状き裂の軸対称変形モデルでは表現できない非軸対称変形をも考慮した定式化を実施し,その数値計算法についての検討を行った.最終年度では、方法の実用性のデモンストレーションを行った.まず、東北大学東八幡平実験フィールドに適用した.同フィールドに作成された地下流体循環システムは2本の坑井とそれに連結した人工き裂からなっている.近傍に新坑井を掘削し,発生するドリリングノイズにより励起されるき裂内圧の変動を観測し逆解析を行った.その結果、き裂の半径は約40mである.き裂の初期開口幅は、坑口基準の貯留層圧2MPaを境にしてステップ状に変化する.貯留層圧が2MPaより小さい場合は約0.3mm、大きい場合は約0.5mmという評価が得られた.引き続き、本方法をオーストラリアのHDRフィールド(クーパーベイスン)で観測された長周期地震に適用した.約100秒の長い継続時間を持つ長周期地震であることから、これは、内部を水で満たされたき裂に生じた定在波を根元とするものと考えて良い.解析の結果半径が約160m、初期き裂開口幅が約17mmという評価結果が得られた.き裂面接触剛性は極めて小さく評価された.このことはき裂がほぼ完全に開いていることを示唆するものである.
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