研究概要 |
マルチワイヤソーとは,複数本の細線ワイヤを高速で往復走行させ,砥粒を油性あるいは水溶性の分散液(ベースオイル)に懸濁させた加工液(スラリー)を加工部へ連続的に供給しながらスライシング加工を行う方法であり,ワイヤと工作物との間(加工部)に浸入したスラリー中に含まれる砥粒の転動や引っ掻き作用により微小切削(ラッピング)加工が行われる.加工特性は,加工部における砥粒の介在状態とその挙動に大きく影響されることから,スラリーの組成並びにその供給状態に著しく依存する. そこで,本申請課題では工作物降下型マルチワイヤソーの加工部におけるスラリー挙動と加工特性の関係を明らかにすることを目的として,スラリー供給点から工作物間並びに加工溝内部におけるスラリー挙動を高速度ビデオカメラによって観察し,一連の加工実験を通じて,スラリー挙動が加工特特性に及ぼす影響を検討した. その結果,以下の事柄が明らかとなった. (1)加工溝内部はスラリーでほぼ満たされており,ワイヤ進入側付近は工作物下面へ,ワイヤ排出側付近は工作物側面及び下面からワイヤへ向かう流れを生じる. (2)スラリーはワイヤ進入部だけでなく,ワイヤ排出側の工作物側面及び下面からも加工溝内部へ浸入しており,スラリーをワイヤ上に供給する方法では,加工溝内部へ多量の空気が侵入する. (3)加工溝内部へ侵入した空気はワイヤ周囲で層状になり,加工部へのスラリーの供給を妨げ,加工能率及び加工精度の悪化を招く. (4)加工溝内にスラリーを安定供給する方法の1つとして工作物を加工液中に沈めて加工する方法(浸漬方式)を実験的に検討した結果,加工溝中には全く気泡が入ることなく切断加工ができる.また,流体シミュレーションソフト等を用いて,浸漬槽内のスラリーの挙動解析を行った結果,工作物の切断荷重を減らす方向にスラリー流れが発生しやすい.
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