研究概要 |
本研究は,最大1mm程度のストローク("ミリストローク")に対してナノメートルレベルの分解能を持つ位置決め機構を,差動ボールねじを用いた簡便な機構により実現することを目的としている.すべりねじ方式の差動ねじは高分解能を得るための機構として既知であるが,ボールねじを差動化して超精密位置決めを試みた例はなく,差動ボールねじのナノメートルレベルの位置決め性能は未知である. そこでまず,ねじ軸外径12mm,基準リードがP_A=2.00mmとP_B=1.95mm(相対リード差d=0.05mm)の差動ボールねじを試作し,ボールねじ単体のリード誤差を精密に測定し,差動ボールねじとしての送り精度を検討した.その結果,両ナット間の位相差が残存しているが,位相調整を行うことにより差動送り誤差を1μm以下にすることが可能であるとの予想を得た.また,差動ボールねじの位置決め性能を検討するための,プロトタイプの位置決め実験装置を構成し,ミリストロークに対する差動ボールねじの送り・位置決め特性を詳細に検討した.その結果ねじ軸の振れ回り誤差とリニアガイドの摩擦が差動機能に対して大きな障害となることが判明した. 次に,プロトタイプの問題点を解決するために機構部を再設計し,差動ボールねじを用いたミリストローク超精密位置決めシステムを再構成した.ねじ軸の振れ回りによる誤差を吸収するためフローティングユニットを取付け,案内の摩擦力を低減させるためにV-平形状による転がり案内とした.その結果,ステージの送り誤差測定において,ねじ軸の1回転に同期した送り誤差を除去することができた.また累積代表送り誤差は0.9μmであり,変動は0.5μm以内であることを確認した.ステージの微視的挙動では,変位の実測値と理論値でほぼ同様の結果を得ることができた.従って,差動ボールねじの効果を発揮できる装置の構成を確立できたと言える.
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