研究概要 |
低圧下やミクロな系においては,気体が連続な物質ではなく,分子の集まりであることの効果-分子気体効果-が現れてくる.温度場によって,重力の有無に依らずに流れが誘起される現象もその一つである.本研究では,この現象を利用した新しいタイプのポンプ(熱駆動型ボンプ)の開発を目指し,以下の研究を行った. 1.熱尖端ポンプの開発:従来の熱駆動型ポンプは,クヌーセンポンプと呼ばれる,熱遷移流を駆動力とする装置であった.本研究では,ポンプの駆動力として熱尖端流を用いる新しいタイプの熱駆動型ポンプ「熱尖端ポンプ」を考案した.このポンプでは,クヌーセンポンプで必要不可欠である固体壁面の温度勾配が不要であり,このため,ポンプ中の加熱部と冷却部を真空中で隔離することが可能になる.このポンプの試作・実証試験を行い,熱尖端ポンプが実際に優れたエネルギー効率を持つことを示した. 産業上の応用の面では,熱駆動型ポンプの動作圧力を向上させることも必要である.この場合,ポンプ内部の流路のサイズを(例えばμm程度まで)微細化する必要があり,実現可能な形には強い制約が生まれる.この問題について数値解析を進め,熱尖端ポンプの流路形状に大幅な自由度があり,多孔質を用いた熱尖端ポンプも考えられることを示した. 2.熱駆動型ポンプの混合気体濃縮効果:分子気体効果の一つは,混合気体の各成分が別々の流速を持つことである.熱駆動型ポンプの駆動力も気体の成分に依存するため,ポンプ内で混合気体が分離する可能性がある.このアイデアに基づいて数値解析を進め,熱駆動型ポンプが混合気体濃縮効果を持つことを見出した.熱駆動型ポンプを混合気体濃縮に利用することは,本研究ではじめて提案されたアイデアである.この研究成果は,熱駆動流を用いた新しい混合気体濃縮方法という新しい研究分野を開くものである.
|