研究概要 |
平行な固体壁面間に挟まれた厚さ数ナノメートルの液膜における熱流体現象を,大規模分子動力学シミュレーションにより解析した。二つの固体壁の相対運動により液膜にせん断を与えることにより、粘性加熱を生じて液膜の温度が上昇し,液膜から固体壁に熱伝導が生じる。マクロなエネルギーの流れとしては,固体壁の運動エネルギーが液膜に流入して流れのエネルギーとなり,それが液膜内で熱エネルギーに変換されて再び固体壁に還流する現象である。大規模な分子動力学シミュレーションにより、これらのエネルギー変換における高非平衡状態の発現や,固液界面や液膜内における熱エネルギーや運動量の輸送特性と,それを支配する液体分子間・液体分子-固体分子間・固体分子間の伝搬機構について現象とメカニズムの詳細を明らかにすることが,本研究の目的である。 固体壁は数種の分子スケールの構造を表面に持つものを想定し,液膜を構成する分子としては単原子分子・直線分子・水・直鎖状分子など様々なものを想定して,それらの組み合わせによる多様な系について解析を行った。この解析により,熱流束の構成要素である個々の分子間エネルギー伝搬について,全熱流束に対する分子運動の各自由度の寄与や,界面近傍におけるその寄与の割合の変化などを明らかにした。また,大きな熱流束・運動量流束が固液界面を通過するとき,多くの系においてその通過抵抗は固体表面における格子スケールの分子配置構造(例えば,表面に露出している結晶面の違い)により大きな影響を受けること,この意味において運動量伝搬特性は当該方向の分子運動自由度の熱振動のエネルギーの伝搬と同じメカニズムに支配されていること,なども明らかにした。 本研究の成果は,ナノスケールの熱流体現象に新たな知見を加えるだけでなく,求められる特性を持つナノスケールの潤滑システムの構築や,固液界面を多数含むナノデバイス等の設計に応用されることが期待される。
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