研究概要 |
圧縮天然ガス(CNG)を筒内直接噴射火花点火機関に適用する場合,NOx排出が問題である.成層化によって燃料濃度の高い領域が形成され,温度が上昇するためである.本研究では,気体燃料の特徴である圧縮性に着目し,燃料全圧と雰囲気圧力の圧力比が臨界値以上であることを利用する.すなわち,過膨張流れにおける超音速流に伴う圧力低下によって雰囲気空気を燃料噴流に強制的に導入・混合させ,混合比分布の平坦化をねらう.一次元圧縮性流体力学解析による見積りを行い,圧力比-マッハ数平面上にて,過膨張によって形成される衝撃波の形態を検討した.急速圧縮機(RCM)の圧縮比をε=5.8とした条件においては,燃焼による圧力上昇の最大値にノズル直径,燃料噴射時期の影響は現れず,過膨張流れの形成が示唆された.過膨張燃料インジェクタの顕著な効果はCO濃度,燃焼効率に現れた.直径2.5mmの過膨張ノズルを用いた場合,CO濃度は大きく低下し,燃焼効率が上昇した.これは,過膨張による負圧によって導入された空気と燃料が混合し,混合比分布が平坦化したためと考えられる.しかしながら,過膨張ノズルの効果は比較的小さく,NOxレベルに影響するほどのものでないこと,また,圧縮比を低下することによってしかこの効果が得られないことなどの問題点も示された. 次に亜音速条件における空気導入効果を実現する方法のひとつとして,乱流混合による空気エントレインメント効果,すなわちブンゼンバーナメカニズムの適用可能性を検討した.大気雰囲気における定常のリグ実験においては,顕著な空気導入を実証することができた.しかしながら,急速圧縮機で実現した高温高圧雰囲気における燃焼実験においては,あらゆる燃焼パラメータに有意な差として検出できる効果を得ることはできなかった. さらに,圧縮天然ガスの筒内直接噴射コンセプトの実機関への適用を考慮すると,技術的制約から噴射弁はシリンダヘッドに装着せざるを得ず,噴射弁位置の影響は重要である.そこで,シリンダ側面およびヘッド中心の二つの位置について,位置の影響を調べた.その結果,噴射弁位置の影響は顕著で,中心噴射とすることで高当量比においてはCO,HCが低下して燃焼効率が増大し,低当量比では著しく燃焼効率が低下することが示された.これらは,燃料噴流とピストン壁面との相互干渉によって混合が著しく促進されたことに基づくことが燃焼解析から明らかとなり,燃料噴流と壁面との相互干渉という新たな要因解析の重要性が示された.
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