研究概要 |
高齢化社会を迎え,寝たきりの高齢者が増えつつある.それより,床ずれが深刻な問題となっている.床ずれでは骨突出部に加わる圧力により血流が悪化し,身体部の壊死に至る.床ずれの防止には,身体への圧力を分散させる必要がある.これには人為的介護が必要となるが,高齢者の増加と介護への費用を考えた場合,機械振動の利用による解決が期待される. 本研究ではカオス振動の特性を活かした高周波刺激により,床ずれ発症部の血流を正常にすることを最終的な目的とし,生体の信号分析を行った. 加振アクチュエータを内蔵したベッドを作成し,ベッド上に横臥した人体の腰部に正弦波およびカオス状波形の二種類の圧迫力を与えた.人体の上腕部を結滞した血流停滞状態と,血流が正常な状態において,脈音,腕部の筋電図と心電図を記録した.筋電の時系列波形には,心拍数よりある程度高い振動数の正弦波状圧迫力を与えると明瞭な影響が現れる.一方,心電図波形への影響は小さい.カオス状圧迫力を与えた筋電図信号には特定な周波数成分が現れず,広帯域の生体加振が可能となった. さらに,加振前後の安静状態において測定した各種時系列波形の最大リャプノフ指数の比較を行った.人体に正弦波波形ならびにカオス振動波形の圧迫力を与えた場合,大多数の被験者において加振後の筋電図の最大リャプノフ指数は加振前に対し増加する.心電図に関しては,正弦波波形の圧迫力を与える前後の最大リャプノフ指数の増減に一定の傾向がない.一方,カオス状圧迫力を与えた場合には,調べた全ての被験者において加振前に対し最大リャプノフ指数が低下した.また,結滞を与えた際の脈音は,心電図と同様の傾向を示した.最大リャプノフ指数の大きさは,時系列波形の非定常性を示す.これより,変動圧迫力により筋電位が活性化し非定常な変動を示すこと,ならびにカオス状圧迫力により心拍の時系列が定常に近づくことが分かった.
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