研究課題
基盤研究(C)
共鳴トンネルダイオード(RTD)の電流電圧(I-V)特性の振る舞いから、電子コヒーレンスを決定する要因である位相緩和、構造不均一性、環境温度を分離して評価できるのか理論的、実験的に明らかにし、RTDを用いた電子コヒーレンスの評価手法の確立を目指した。まずRTDのIV特性をa)電流遮断領域、b)電流立ち上がり領域、c)電流ピーク領域の三つの電圧範囲に分割し、a)の領域より電子位相コヒーレンスを、b)の領域より構造不均一性をc)の領域も含めて理論フィッティングすることで分離評価する可能性を提案した。まず本手法の有効性を確認する目的で、ステップフローモードで成長されたInP/GaInAs系RTDの評価を行なった。井戸幅4nmを持ち、構造不均一性として井戸幅揺らぎの他に電極層不純物の影響の可能性を考察する目的でバリアと電極層を隔てるスペーサ層厚さは2.6nmと短くした。温度による波長広がりを分離するため4.2Kで得られた測定データは、構造不均一性として井戸幅揺らぎ(標準偏差)を0.6nmとすることで、a)領域からc)領域まで約三桁変化する電流特性を完全に理論フィッティングでき、本手法の有効性を確認した。次に構造不均一性の一つである電極層不純物のIV特性へ与える影響をモデル化し、IV特性のa)領域部分へ影響を及ぼさないための条件把握を行なった。結果、3x1017cm-3程度のドーピング濃度ではスペーサ厚さ2.6nm程度あれば、井戸幅揺らぎと比較して十分影響を抑えられることが明らかとなった。最後にこれまでの理論手法を駆使し、位相緩和、構造不均一性、環境温度を分離して電子コヒーレンスを評価するRTD構造の条件を提示することに成功した。
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