研究概要 |
近年,弾性表面波(SAW)デバイスは,携帯電話や通信衛星など移動体通信機器のキーデバイスとして広く利用されている.SAWデバイスの周波数特性は圧電体基板上に作られる櫛形電極(IDT)の構造に依存するため,シミュレーションに基づくSAWデバイスの最適設計では,IDTの等価回路モデルにより周波数特性を解析しながら,SAWデバイスの適切な構造を探索する.しかし,IDTの等価回路モデルに含まれるパラメータを厳密に求めることは難しく,強力な最適化手法を駆使してSAWデバイスの構造を決定しても,製造されたSAWデバイスで期待された性能が得られなかったり,特性のバラツキによって歩留まりが低下したりする. 本研究では,等価回路パラメータの変動範囲とSAWデバイスの要求仕様を規定し,仕様として与えられたSAWデバイスの周波数特性から制約条件式を導出するとともに,SAWデバイスのロバスト性の評価指標を新たに考案して目的関数とすることで,等価回路パラメータのバラツキを考慮したSAWデバイスの最適設計を,制約条件付き最適化問題として定式化した. つぎに,上記の制約条件付き最適化問題の実行可能領域と目的関数空間の景観を鑑みて,ペナルティ関数法と可変近傍探索法を組み合せた最適化手法を構築した.ペナルティ関数法においてはペナルティ係数の適切な調整が重要となるが,ペナルティ係数を周期的に増減させることで,局所的最適解からの脱出を容易とした技法を考案した.また,シミュレーションによるSAWデバイスの周波数特性の評価には計算時間を要するため,探索性能を落とさず探索回数を制限した可変近傍探索法の高速化手法を提案した.さらに,大規模なSAWデバイスのロバスト最適設計問題に対しても良質の解を得るため,可変近傍探索法と遺伝的アルゴリズムを組み合せた遺伝的局所探索法を構築し,代表的なSAWデバイスの一つである共振器幾SAWフィルタの構造設計に適用することで,提案したロバスト最適設計手法の有用性について検証した.
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