研究概要 |
堆積層-基盤系は,地震時において地震波を変調する主たる伝播系である.この系を支配する要因として,実体波の減衰特性とコヒーレンス特性は最も基本となるものであり,観測により与えられる独立な観測量である.本研究では,関東地域に展開されている中・深層井観測施設で得られた地中群列記録を用いて,これら2つの特性のモデル化を試みている. 実体波の減衰特性に関する研究では,前年度のP波に引き続き,S波の減衰特性に関する評価を,トランスバース成分を用いて行った.推定法は,深層井記録上での直達S波とその地表からの反射S波を周波数領域で比較するものであるが,0.5〜2Hzにおいて,Qsはほぼ周波数に比例し,その比例定数が50程度となることが明らかになった.また,Qsは,2〜16Hzでほぼ平坦な特性となった. 近地地震から発生した直達実体波の堆積層-基盤系におけるコヒーレンス特性は,S波もP波と同様に,ω自乗型のモデルで説明された.また,コヒーレンスな伝播をする周波数帯域におけるQs/Qp特性は,0.5Hz〜2Hzでほぼ平坦となり,その値は1.5となった.これは,地表近くの地層における2よりも小さく,地殻上部の値にほぼ等しい. 堆積層-基盤系を伝播するS波のコヒーレンス特性は,中・深層井記録と地表記録及び,深層井記録上の直達S波と地表からの反射S波を比較する方法を用いて推定した.これは,コヒーレンス特性に及ぼす伝播長の影響を見積もる為である.得られた結果は,ω^<-2>型のコヒーレンス特性を示し,そのコーナ周波数は伝播時間に比例して減少するが,伝播時間がある程度小さくなるとコーナ周波数が一定となる.即ち,臨界コーナ周波数が出現する.関東地域においては,SH波の場合,伝播時間が0.5〜2.5秒程度の範囲で,コーナ周波数の半値が2.5〜3Hzというきわめて狭い範囲で一定となる.この事実は,近地地震から発生したS波は,先第三系基盤に到達した時点で,この帯域以上の周波数域で既にインコヒーレントな波となっていることを示唆するものである.これは,強震動予測手法を構築する上で,重要な情報となろう.
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