研究概要 |
本研究は、より現実的な音場評価システムを研究し構築しようとするものである。また、従来から用いられている音響指標の適用限界について見極め、演奏会で知覚される主観的印象そのものに対応した合理的な評価手法について明らかにしようとするものである。研究成果の概要を以下にまとめる。 1.斜め方向から到来する後期音群を用いた心理実験の結果から、単一の方向成分を有する音場における方向別後期音エネルギ率DLRとLEVの関係が、複数の方向成分を有する後期音音場においても成り立つことを示した。 2.残響時間を2.5秒に設定した場合の心理実験の結果から、DLRのLEVへの寄与の度合いは、側方,後方,上方の順に大きいこと、また後方および上方エネルギ率の寄与の度合いは側方の7割から9割であることを示した。また、残響時間が長くなるとDLR間の寄与の差が小さくなることを明らかにした。 3.実音場インパルス応答を用いた心理実験の結果から、反射音密度並びに初期音の到来方向を限定した条件下で得られたDLRとLEVの関係が同様に成り立つことを示した。 4.心理実験から得たDLRとLEVの関係に実測DLRを適用し、既存ホールにおけるLEV値を検討した結果から、LEVがホール音場の評価に大きな影響を与えることを示し、後期音の方向特性とLEVの関係を考慮した音場評価の重要性を示した。 5.幾何シミュレーションによる後期音方向情報の予測を試み、LEVの推定手法について検討した結果から、LEVの知覚に対して有意差を生じさせない範囲内でDLRの予測が可能であることを示した。 6.反射音の方向情報が舞台上における演奏のしやすさに関与するという心理実験結果を踏まえ、実音場舞台における物理測定を実施した。その結果から、初期反射音レベルおよび方向別反射音エネルギ比に関して舞台音場シミュレーションのための有効なデータが得られた。 以上より、舞台音場を含めた室内音場シミュレーションによる予測評価について一定の有効性を得た。
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