研究概要 |
本研究は,特別養護老人ホームの施設更新による「従来型ケア」から「ユニットケア」への環境移行に伴う,入居者の生活展開や体動活動の変化と,施設職員の介護労働量の変化を比較検討し,特別養護老人ホームの更新に関わる居室形式のあり方に関しての建築的な示唆を獲得することを目的とした。調査結果の概要を以下にまとめる。 1)入居者の生活展開のうち日中の滞在場所は,プライベート領域が2割近く減少してセミプライベート領域が増加した。これに伴って,滞在姿勢も2割程の時間がベッドでの臥位からいすや車いすでの座位に変化し離床の進む傾向が見られた。一方で,行為内容については大きな変化は認められなかった。 2)アクティグラフによる入居者の日中の体動活動数は,0〜360回/分の範囲に広く分布しており,明確な個人差や要介護度による違いも観察された。行為別に見ると,概して150回/分以上の体動活動数が能動的あるいは自主的な行為を反映しており,要介護高齢者においてこのあたりの体動活動の増加が望まれよう。一方で,移行前後の比較では個人ごとに異なった増減の様子が見受けられ,一律の傾向は捉えられなかった。 3)施設職員の体動活動数はあまり個人差が見られず,220〜280回/分の体動活動数が日勤労働時間の約7割,そのうち240〜260回/分が約3割を占めていた。また,移行前後でもほとんど変化はなく,介護労働量に対する影響自体は小さいものと推察できた。 4)従来型の施設においても,居室の身近に設えたリビング的な空間は,デイルームの利用がしにくい介護指標の高い入居者の滞在場所として有効に機能していた。さらに,中度〜低い側の入居者にとっても日常の滞在場所の選択肢を増やすという効果が観察された。
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