カトマンズ盆地の伝統的な建築については、その独自な形態と歴史が注目され、建築・都市の一部が世界遺産に挙げられている。層塔は、その代表的な建築類型である。こうした層塔の系譜を明らかにすることは、東洋建築史上の重要な課題である。 この研究では、カトマンズ盆地とその周辺のヒンドゥー教寺院の層塔に対象を限定して、その形態を集成して分析し、類型を求めた。資料としては、この4半世紀にわたって蓄積した図面・写真を都市・集落ごとに、個々の塔ごとに集成して用いた。また、今回現地で古写真を複写することができた。収集した資料、写真、ビデオ映像がデジタル化できたことは、近い将来の保存修復に有用となる。分析の結果は、以下のとおりである。 ネパールのヒンドゥー教の層塔は、神室をれんが壁と木の柱で囲んでつくり、屋根を二重としていた例が先行し、多いこと、二重塔から上層を増築した例が見いだせることも考慮すると、二重塔が基本の形であったと言える。しかし、平面規模が4000mmほどを境に、外周型から内外周型に構造を変える。神室を囲む内周壁を立ち上げ、2層目の壁とし、1層日ではその周囲にれんが壁あるいは木の柱列を回して平面を拡大し、屋根を2層目の上、三重にに載せた。さらに高さを求めて、基壊を高くし、層を重ねて五重塔を出現させる。正方形の層塔は建築形態上、このように一つの系譜で捉えることができる。 この発展過程を考慮すると、先行する仏教建築の、繞道を持つ平面形式を受け継いだとは言うのは難しい。むしろ、外壁を回しただけの小規模な平面は、上部の構造は異なるが、インド各地にみられるものと形が共通し、概念を共有していることに系譜上注目しておくべきであろう。
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