研究概要 |
大きな熱電出力因子と低い格子熱伝導率を両立させることが可能なミスフィット型層状硫化物[Ln_2S_2]_pTS_2(Lnは希土類、Tは遷移金属)に注目し、新規ペルチェ材料の創製を目指した研究を行った。最初にp型材料の合成を目的として、T=Nb系について合成実験を行ったところ、Ln=EuとLuを除く希土類とYを用いて[Ln_2S_2]_pNbS_2相が合成可能であること、および希土類のイオン半径により、[Ln_2S_2]_pNbS_2相が異なる3種類の超空間群をとることが明らかにされた。イオン半径が大きい希土類(La, Ce, Pr)では、両部分構造とも斜方晶のFm2m(p00)00s相が生成し、Ln=NdおよびSmでは、Fm2m(p00)000相が生成した。一方、小さいイオン半径を持っLn=Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, YbおよびYでは、F2(p0q)相が生成した。このうち、Ln=Yb系化合物は、T=300Kにおいて、ゼーベック係数S=60μVK^<-1>、抵抗率ρ=1.4mΩcm、熱伝導率κ=0.80WK^<-1>m^<-1>を示し、この系で最も高い熱電性能指数Z-3.2x10^<-4>K^<-1>(ZT〜0.1)を示すことが明らかになった。Zの値は、温度の上昇とともにさらに増大したが、使用可能な温度の上限およびZの最大値を見極めるまでには至らなかった。次に、p型材料としてYb-Nb系硫化物を用い、n型材料としてSn-Ti系硫化物を用いて、pn接合素子の試作を試みた。アルミニウム板を介して銀ペーストで接合されたpn素子(1対)に電流を流して、素子両端に生じる温度差を測定したところ、通電初期には数度の温度差が生じたものの、短い時間内で温度差がほぼ0となった。これは、試料のゼーベック係数の絶対値が両材料とも70μV/K程度とやや小さいために、温度差を生じさせるためには大きな電流を流す必要があり、この結果、素子のジュール熱が生じたためである。したがって、さらに優れた冷却特性を発現させるためには、より大きな熱電性能指数を有する材料を開発する必要がある。
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