研究概要 |
本研究では,クリープ変形中に生じる亜結晶の成長過程(組織劣化過程)が歪に依存するか否か,また,耐熱鋼,Al-Cu合金および商用マグネシウム合金における析出物のオストワルド成長が歪に依存するか否かを検討した.さらに,亜結晶粒界が析出物で固着されている試験片を用意し,亜結晶粒界が析出物の拘束から脱出する臨界応力を調べた.臨界応力とは,臨界応力以下では亜結晶粒径が変化しないが,臨界応力を越えると亜結晶粒径が増加し始める応力である.試験温度が上昇すると臨界応力が低下するが,これは析出物の間隔が試験温度の上昇とともに増加するためで,臨界応力の温度依存性は見掛けのものであることが分った.著者らは亜結晶粒界が析出物の拘束から脱出する応力をMater.Trans.44(2003),239-246.において示したが,実験的に得た臨界応力は理論的に予測した応力とほぼ一致した.亜結晶粒の成長(組織の劣化)は亜結晶粒界の移動をともなうので,転位の移動で組織の劣化が生じたと見ることができる.この現象は析出粒子の成長とは一見異なる現象に見えるが,亜結晶粒界が析出物によって固着されていること,亜結晶粒界移動で析出粒子の成長が加速される得ることを考慮すると,本研究で扱った歪によって加速される組織劣化は全て運動転位による溶質原子の輸送に起因すると見ることができる. 運動転位が溶質の輸送に関与できるのは,転位と溶質原子との間に原子半径差に基づく弾性的相互作用が存在するからである.一般に,多くの耐熱材料は母相との原子半径差が大きい溶質原子を固溶させている.これは,耐熱材料のマトリックスを強化するためである.それゆえ,多くの耐熱材料は,本研究で指摘した転位のScavenging効果から免れることはできないが,本研究で提案したモデルに基づいてScavenging効果を低減し,歪加速の影響を小さくする指針を得ることができる.母相との原子半径差が大きい溶質原子は転位の引きずり抵抗(固溶強化)を高めるので積極的に利用されているが,析出物の成長過程では,原子半径差の大きい固溶元素は組織の劣化を加速するので,今後の合金開発では考慮する必要がある
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