研究概要 |
(1)非平衡開放系での自己組織化原理を用いた自発流動の秩序化 油水界面での反応で界面に巨視的な波動が発生する系として知られているヨウ素/ニトロベンゼン溶液とカチオン性界面活性剤水溶液の系について,その流動発生機構を研究した。その結果,固体壁面での界面活性剤の吸着と反応脱着が生み出す,周期的な濡れ転移が重要であり,濡れ状態に安定な界面メニスカス形状を回復するための流体力学的不安定性の発生が,巨視的秩序流れの発生のキーポイントであるとの知見を得た。また,我々が見出したDEHPA/有機溶媒とII族カチオン水溶液系について,界面運動のイオン種依存性を解明し,"外部環境(イオン種)に対応した自律型運動発生"の実現とその機構解明を行った。この現象には,油水界面での界面活性剤とイオンとの反応が生み出す,吸着濃度分布の揺らぎの自発発達過程が重要であり,界面は,それを通じて特定のイオンを認識し,流体力学的不安定性をオンセットする。 (2)非平衡開放系での自己組織化原理を用いた無機固体材料の構造設計 本研究では,ゲル中の反応拡散過程で形成される微粒子の微細構造について,その形成機構を検討した。ゲルの一方からBaイオンとSrイオン,(CaイオンとMgイオン)を拡散させ,反対側からSO_4イオン(CO_3イオン)を拡散させて形成した固溶体粒子は,ゲル内の位置と反応進行時間に応じた系統的かつ複雑な構造変化を示すことがわかった。これらの結果は,ゲルがイオン毎に拡散速度を変化させている,ということを考慮することで理解できることを明らかとした。 流体の自発運動や反応拡散系の構造形成の基礎的解明は,その工学的応用にあたって必要であるばかりでなく,自ら環境に応じたエネルギー変換と目的のある運動を行い,その過程で,特定の生成物を形成していく,という生き物のような化学システムを設計するための,一歩となると予想される。
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