研究概要 |
モデル生物であるショウジョウバエは,老化研究においてもまた有用である。本研究では,老化に関するモデル実験系としてのショウジョウバエの普遍性を検証すること,および加齢にともなうさまざまな現象を基礎として,寿命決定にミトコンドリアが関わる機構を考察することを目的とした。平成15年度,16年度の2年間にわたって研究を行い,以下の点を明らかにした。 (1)加齢にともなって欠失をもつmtDNAが蓄積することが,PCRとサザンハイブリダイゼーションによって示された。欠失の生じる部位には,ダイレクトリピートが頻繁に存在していた。また,DNAの酸化マーカーである80H-dG量は,核DNAよりもmtDNAに多く,羽化後1日よりも55日で有意に増加していた。これらの結果より,ショウジョウバエにおいても,老化にともなってmtDNAが損傷を受けることが確認された。 (2)成虫の胸部筋肉のミトコンドリアでは,電子顕微鏡による観察から,加齢した個体でミトコンドリアの顕著な肥大が見られた。この変化は,死亡率の増加する以前の35日齢頃には現れていることが分かった。一方,呼吸鎖複合体の活性を,複合体IおよびIIが関わる経路について調べたところ,いずれの場合も,活性は羽化後から徐々に低下することが示された。 (3)核ゲノムが同一でmtDNAが異なるD.melanogasterのいくつかの系統の寿命を28℃で測定したところ,異種に由来するmtDNAをもつ系統では,mtDNAが置換していない系統と比較して,寿命が有意に短くなっていた。 本研究の成果より,加齢にともなうミトコンドリアの変化の詳細が,ショウジョウバエにおいて把握できた。いずれもミトコンドリアとmtDNAが老化と寿命に大きく関わっていることを示唆するものであり,ショウジョウバエがモデル系として有用であることが確認された。さらに核ゲノム側からの検討もあわせて,寿命と直接的に関連する過程を同定していくことは,今後の老化研究に大きく貢献するものと考えられる。
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