研究概要 |
本研究では,栄養段階カスケードがプロセス連鎖に及ぼす影響を実験的に明らかにすることを目的とした.対象として扱った系は「クモ→トビムシ→微生物→リター→土壌動物」である.スギ林床に高密度で生息するチビサラグモという造網性種を捕食者として用い,その除去区と導入区を設定し,捕食が土壌生態系に直接的,間接的に影響を及ぼす影響を以下の観点から検証した. 1)チビサラグモは,トビムシなど土壌昆虫の個体数を制限しているか? 2)チビサラグモは,間接的に土壌微生物量を増加させているか?(栄養段階カスケード) 3)チビサラグモは,間接的にリターの分解率を増加させているか? 4)チビサラグモは,間接的に土壌中のトビムシ,ササラダニ個体数を増加させているか?(プロセス連鎖) ほぼ1年半に及ぶ長期的な野外実験の結果,まず1)の仮説は支持された.つまり,クモの捕食はトビムシ個体数を制限していることが確かめられた.しかし予想に反し,2)以降については,有意な効果は検出されなかった.その理由としてはいくつか考えられるが,1)このクモのトップダウン効果はカスケードを引き起こすほど本来強くない,2)微生物量はトビムシの摂食により短期的には減少するが,高い回復速度のために現存量には影響が生じない,などが有力と思われた.本研究では,栄養段階カスケードがプロセス連鎖の連結を実証することはできなかったが,こうした視点や実験的手法は先駆的なものとして有用であると思われる.今後は,機能群を単位とした野外操作実験や,機能群内での種あるいはギルドの多様性が一連のプロセスにどう関わっているかを解明する必要がある.
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