研究概要 |
小胞体は分泌経路における最初のオルガネラとして,分泌タンパク質や膜タンパク質,脂質の合成の場となっている.小胞体は単なる合成の場としてだけでなく,合成されたタンパク質の品質管理の場ともなっている.小胞体におけるタンパク質の品質管理は,高次構造形成に失敗した異常タンパク質が小胞体から先のコンパートメントに送り出されることを防ぎ,細胞の機能維持に重要な役割をはたしていると考えられる.配偶子形成から受精,種子形成に至る有性生殖の過程は,細胞内膜系の構造が大きく変化する時期であり,その進行に小胞体品質管理が重要な役割をはたしていると予想される.本研究では,小胞体品質管理の分子装置である小胞体内腔の分子シャペロン,その中でも特にHsp70ファミリーの分子シャペロンであるBiPに特に着目し,分子装置の側からのアプローチによって,植物の生長・分化における小胞体品質管理の役割を明らかにしていくことを目指した. 本研究では,まず,優性欠損変異を利用して,シロイヌナズナ培養細胞と植物体を用いたBiP機能の解析系を構築した.そして,BiP変異体を培養細胞で発現することによって,小胞体内でタンパク質凝集が誘導されることを示唆する結果を得るとともに,花粉でBiP変異体を発現することによって花粉の受精能の欠損が誘導されることを示した.さらに,T-DNAの挿入によるシロイヌナズナBiPの欠損変異株の構築を行った.また,BiPのパートナータンパク質として機能する,小胞体のJドメインタンパク質についての解析も行った.出芽酵母小胞体のJドメインタンパク質である,Jem1p,scj1p,Sec63pのシロイヌナズナホモログを同定し,これらの遺伝子破壊株の作製を行った.
|