研究概要 |
野外環境条件の変動は植物の葉での活性酸素生成を増大させる。細胞の抗酸化能は植物の最も重要な環境ストレス防御能のひとつである。1995年,ケント大学(ベルギー)のInzeらは,植物ゲノムから新たな抗酸化遺伝子を探索するため,シロイヌナズナcDNAライブラリを発現した酵母の酸化剤ジアミドに対する耐性スクリーニングを行い,新規な酸化還元酵素遺伝子を同定した。研究代表者はこの酵素の生理的基質を探索し,この酵素が過酸化脂質から生ずる毒性の高いα,β-不飽和アルデヒド(活性アルデヒド)のα,β-不飽和結合を還元し解毒する新規酵素2-alkenal reductase(AER)であることを明らかにした。本研究では植物の環境ストレスにおける活性アルデヒドの作用を解明することを目的とし,以下の成果を得た。(1)酸化的ストレスにより葉で生成するアルデヒド種の同定。葉緑体の活性酸素生成を促進するパラコートをシロイヌナズナ葉に与えると,C3およびC4活性アルデヒドであるアクロレインとクロトンアルデヒドが生成した。(2)活性アルデヒドによる光合成阻害。単離葉緑体にC3〜C9の活性アルデヒドを加えると,葉緑体のカルビン回路が特異的に阻害された。飽和アルデヒドは阻害が弱かった。チラコイド膜電子伝達活性は阻害されなかった。カルビン回路の複数の酵素が失活する,こと.がわかった。(3)AERによる葉の光酸素傷害防御。シロイヌナズナAER遺伝子を過剰発現させたタバコは,強光またはパラコートによる葉の光酸素ストレスおよびオゾンストレスに耐性を示した。以上の結果から,葉の光酸素ストレスにおいて活性アルデヒドが生成し,それが葉緑体カルビン回路を阻害するとともに細胞傷害をもたらすこと,AERによる活性アルデヒドの解毒は,光酸素傷害防御の重要な機能であることが明らかになった。
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