研究概要 |
甲殻類の中でもミジンコ(枝角類)は,水温,餌,日長,飼育密度,などの生息条件に応じて単為生殖性の雌が雄を産生したり,休眠卵(耐久卵)を産生する両性生殖性の雌に変換する.これらの外的要因が,体内でどのようなシグナルに変換され,そのシグナルがどのようなメカニズムで性決定や生殖様式の変換に関与しているかは,ほとんど解明されていない,我々は最近,ファルネセン酸メチル(MF)をオオミジンコに与えると雄産生が誘導されることを見いだした.そこで,MFが実際にオオミジンコ体内で合成されているかどうか知るために,MF生合成の最終段階であるメチル化反応の有無を,famesoic acidのメチル化を[methyl-^3H]methionineのメチル基の転移反応と,上記反応を触媒する酵素famesoic acid O-methyltransferaseのmRNAの有無をRT-PCR法によって検討した.その結果,オオミジンコの体内でMFが合成されているという証拠は得られなかった.さらに,自然界では雄産生と同時に休眠卵が誘導されるが,MF処理によっては休眠卵は誘導されないことも明らかとなった,これらの結果は,MFは単為生殖から両性生殖への転換へは関与していいことを示しており,MFによる雄産生は生体内の生理作用とは別の経路(例えば,アーティファクト)によって誘導されものと解釈された.さらに,種々のMfhの誘導体を化学合成し,雄産生誘導効果と化学構造との相関性を検討した.これらの成果は,日本動物学会第75回大会のシンポジウム「動物の性決定及び性分化機構-性決定の進化を探る-」にて「オオミジンコの性決定と生殖様式の変換」と題して発表された.
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