研究概要 |
本研究は,第三紀以降のユーラシア大陸温帯域各地で進行した環境変化とフロラの分化プロセスとの関係を明らかにすることを目的とする.そのため,日本とポーランド・シャフェル植物学研究所で,第三紀に北半球に分布拡大し,その後の気侯変化に伴って各地で種分化したとされているブナ属やヒシ属などの分類群について日本産と中部ヨーロッパ産の新期新生代産植物化石の形態を比較した.さらに,ユーラシア大陸各地の植物化石群の組成や堆積環境を調べ,それらを最新の地質学的資料に基づいて整理した.その結果,1)ブナ属とヒシ属について,後期中新世初頭の日本と中部ヨーロッパの植物化石形態を比較した結果,顕著な差はみられず,この時代にはユーラシア大陸の東西での種分化が顕著ではなく,これらの分類群の分布域が連続していた可能性が考えられた.2)ブナ属では中部ヨーロッパと日本の両方で,中期中新世末から鮮新世にかけて葉の二次脈数が減少し,葉身の幅が広くなるという同様の傾向が明らかになった.3)ブナ属,ヒシ属,メタセアコイア属の第三紀以降の分布変遷を調べた結果,後期中新世以降に分布の縮小傾向が顕著になったことがわかり,この時代から第四紀にかけての気候の寒冷・乾燥化がユーラシア大陸東西のフロラ分化に大きな影響を与えたと考えられた.4)ネパール・カトマンズ盆地の鮮新・更新世の植物化石群を検討したところ,前期更新世までのフロラには東アジア固有の分類群が多く含まれていたのが,第四紀後半に西アジアの要素が分布拡大して現在のフロラが形成された.5)東アジアの完新世の植物化石群の検討から,現在見られる植生や植物の分布は,前期完新世以降の人間活動によって大きく改変されており,現生フロラと化石フロラを比較する上で,人為の影響のより少ない前期完新世の植物化石情報が参考になる,ことが明らかになった.
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