研究概要 |
遺伝暗号の翻訳過程において,終止コドンを認識するのはtRNAではなく翻訳終結因子とよばれるタンパク質である。真核生物においてはeRF1とよばれる1種類のタンパク質が終止コドンUAA, UAG, UGAをすべて認識している.このメカニズムに関して,我々はeRF1のドメイン1の先端部付近に位置するGly57/Thr58およびSer60/Asn61が,それぞれ終止コドン2字目ならびに3字目の直接的な認識にかかわっており,それらを含むヘリックス構造(アルファ2ヘリックス)の柔軟性がコドンの多重認識を可能としているという仮説を提出している. 本研究は,この仮説の検証を軸に,eRF1による終止コドン認識メカニズムの解明を目的とするものである.ヒトeRF1は438アミノ酸残基からなる分子量49,030のタンパク質であるが,NMRによる動的構造解析のために,そのN末端142アミノ酸残基からなるドメイン(分子量15,677)を発現・精製する系を作成した.これは,申請者らの仮説でコドン2字目と3字目の認識に関与するとした57番目から61番目のアミノ酸残基を含み,既に報告のあるX線結晶構造では,他の2つのドメインと立体構造上分離している領域である.これを用いて,^<15>N標識体ならびに,^<15>N,^<13>C二重標識体の作成に成功し,主鎖のすべてのシグナルと側鎖のほとんどのシグナルの帰属を完了した。これにより,溶液中の立体構造の決定と,Gly57Thr58ならびにSer60Asn61付近のフレキシビリティーを検討し,申請者らの仮説の妥当性を検証することができるようになった.本研究は,東京大学大学院農学研究科の田之倉優教授に協力を得て行われた。
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