研究概要 |
ヘパラン硫酸(HS)はヘパリン結合性細胞増殖因子、細胞外マトリックスタンパク、プロテアーゼインヒビターや病原体などたくさんのタンパクと相互作用して、発生のみならず病理的、生理的な現象に重要な働きをする。これらHSの機能を阻害する化合物を見いだすことは重要である。 1 遺伝子工学的手法による阻害剤の開発:ヘパラン硫酸はヘパリン結合性細胞増殖因子、細胞外マトリックスタンパク、プロテアーゼインヒビターや病原体などたくさんのタンパクと相互作用する。リコンビナントのヘパラン硫酸2-O-,6-O-硫酸転移酵素を用いて、2-O-硫酸化オリゴ糖と6-O-硫酸化オリゴ糖を合成した。2,6-O-硫酸化オリゴ糖はヘパリンから調製した。これらオリゴ糖ライブラリーを用いて種々HGBF(FGFs,HGF,VEGF,BMPsなど9種類)との結合能をアフィニティクロマトグラフィと表面プラズモン法で解析した。その結果5グループに大別され、FGF-10とFGF-2は非常に特異的な構造、前者は6-O-硫酸化オリゴ糖のみ、後者は2-O-硫酸化オリゴ糖のみと結合した(J.Biol.Chem.(2004)273,12346-12354に発表)。次に、血管内皮細胞(HUVEC)とマウス胚線維芽細胞(MEF)を用いてVEGF_<165>,FGF-1とFGF-2活性に対する修飾ヘパリンとオリゴ糖の影響をレセプターのリン酸化で解析した。HUVEC/VEGF_<165>の系ではヘパリンはシグナルを増強したがいずれのオクタオリゴ糖も影響を示さなかった。MEF/FGF-1ではレセプター(FGFR-1)のリン酸化が低濃度のヘパリン添加では促進され、高濃度では阻害された。FGF-1に依存したFGFR-1のリン酸化は細胞表面のヘパラン硫酸を除くと激減することが確認できた。FGF-1はオクタオリゴ糖と強い結合能を示したので、今後MEFを用いてオリゴ糖の活性への影響を解析する。 2 化学的手法による阻害剤の開発:上記で述べたリコンビナント酵素を用いて試験管内で酵素活性を阻害する化合物をアッセイした結果、metyl-a-GlcA2Sがリコンビナントヘパラン硫酸6-O-硫酸転移酵素に対して阻害活性を汚した。metyl-β-GlcA2Sが細胞レベルで阻害活性を持つかどうかをHB-GFのシグナリングへの影響によって評価した。CHO-K1細胞にFGFR-1が導入された安定変異細胞を作製し、FGF-2依存的なFGFR-1のリン酸化に対するmetyl-β-GlcA2Sの効果および1で述べたHUVEC/VEGFの系で調べた。その結果3mM以上のMetyl-β-GlcA2Sを培地に加えるとVEGFR-2のリン酸化を明らかに抑えた。しかし、この薬剤存在下で合成されるヘパラン硫酸の2糖構造は有為に変わらなかった。この薬剤による阻害効果がヘパラン硫酸を介した機序かどうか今後解析する。
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