研究概要 |
マウスの茸状乳頭は、50個程度の味蕾細胞から構成され,それらの細胞集団は周辺細胞によって取り囲まれている。本研究では,味蕾構造を保存した剥離舌上皮膜標本を用い,細胞内カルシウムの光学測定と組み合わせることによって味蕾内のネットワークを調べた。1.塩味物質であるNaClと苦味物質であるデナトニウムを受容膜側に与えると多数の細胞が応答することから,味神経とシナプスを形成していない細胞においても細胞応答が引き起こされると考えた。2.電位依存性Ca^<2+>チャネル阻害剤であるCdCl_2を基底膜側に与えた結果より,NaCl応答は主として細胞外からのCa^<2+>の流入,デナトニウム応答は主として小胞体からのCa^<2+>の動員によると考えた。3.味蕾細胞基底膜へATP,グルタミン酸,アセチルコリン,セロトニンを与えると一過的な細胞内カルシウム濃度の上昇が引き起こされた。味蕾周辺細胞もATP,グルタミン酸,アセチルコリン,セロトニンに対する応答能を有していた。特に,ATPを与えた際に引き起こされる応答は味蕾細胞よりも味蕾周辺細胞に多く観察された。4.味蕾周辺細胞のATP応答は,スラミンとPPADSによって抑制され,DHEAによって増大したことより,味蕾周辺細胞には少なくともP2X受容体が発現していると考えた。5.ATPが味蕾周辺細胞に引き起こす応答は,刺激直後に応答する細胞から刺激10秒後に応答する細胞まで幅広く存在した。味蕾周辺細胞をいくつかの細胞集団に分けて解析すると,個々の細胞集団内で逐次的に応答が引き起こされていた。6.ギャップジャンクション阻害剤であるオクタノールを与えると,約半数の細胞においてATP応答は消失し,逐次的応答も阻害された。 以上の結果より,味蕾内ネットワークは味蕾細胞間だけに存在するのではなく味蕾周辺細胞も関与している可能性があると考えた。
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