研究課題
基盤研究(C)
全体として、初期に設定した目標に対して十分満足のいく結果を生み出すことができ(下記参照)、こうした成果を最終的に論文として公表することができた(Curr.Biol.14:539-551,2004)。その点で、交付を受けた科学研究補助金を非常に有効な形で生かすことができたと自信を持って言うことができる。初年度である平成15年度には、哺乳動物PAR-1キナーゼのスレオニン595がaPKCによってvivo, vitroで特異的にリン酸化され、かつそのリン酸化によってPAR-1の上皮細胞側底膜への結合が阻害されることを生化学的に明らかとした。さらに平成16年度には、(1)このリン酸化により、PAR-1キナーゼと哺乳動物PAR-5ホモログである14-3-3タンパク質の結合が誘導されること、さらに、(2)極性化した上皮細胞内では可溶性のPAR-1のみがリン酸化を受け14-3-3と結合しており、膜画分に存在するPAR-1はリン酸化も結合も示さないことを明らかとした。さらに、このリン酸化部位をアラニンに変異させたPAR-1は側底膜のみならず、aPKCが存在する密着結合、さらには頂端膜ドメインにも侵入するようになることを発見した。以上の知見は、aPKCが密着結合部位においてPAR-1bをリン酸化し、14-3-3と協同してPAR-1の側底膜からの遊離を誘導していることを強く示唆した。重要なことは、この結果が、「いかにしてaPKCとPAR-1が正反対の細胞膜表層に相互排除的に局在するのか」というこれまでなぞであった現象の基礎となる分子機構を明確に示したことである。我々が論文を発表した後、ショウジョウバエ卵母細胞、線虫胚においてもこの進化的に保存されたPAR-1のスレオニン残基を利用して同様の極性タンパク質の分布制御機構が動いていることが証明された。我々の今回の研究成果が普遍的な極性制御機構の解明に大きく貢献したと言える。2)一方、この研究をさらに発展させるものとして、培養上皮細胞内でPAR-1と特異的に結合するタンパク質を検索し、非常に興味深いタンパク質の同定に成功し、今後の研究の発展の基礎も築いた。
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