研究概要 |
脊索動物あるいは脊椎動物に特徴的な多くの構造(たとえば中枢神経系の前後軸に沿ったパターン,咽頭鰓裂,神経堤細胞など)は,レチノイン酸依存的に形成される。レチノイン酸の合成酵素・分解酵素・受容体の遺伝子は脊索動物からのみ報告されているので,これらの遺伝子を獲得したことが,脊索動物特有の形態が進化するために重要なステップであったと考えられる。本研究では以下のことを明らかにした。 (1)レチノイン酸合成酵素(Raldh2)・分解酵素(Cyp26)および受容体(RAR)を同定した。また正常胚とレチノイン酸処理胚における発現を解析した。Raldh2は尾の付根の3個の筋肉細胞で,Cyp26は脳の一部の細胞で発現しており,これらの遺伝子の発現領域の間にはギャップが存在した。この発現パターンは脊椎動物のものと非常によく似ており,これらの酵素が作り出すレチノイン酸の偏った分布がホヤの形態形成においても重要であることが示唆された。 (2)RARのエンハンサーを単離し,中枢神経,表皮,筋肉のエンハンサーエレメントを同定した。 (3)レチノイン酸標的遺伝子のcDNAマイクロアレイ解析およびオリゴチップ解析を行った。チップ解析で候補となった150以上の遺伝子についてin situ解析を行い,レチノイン酸に対する応答性を確認した。また,ピューロマイシン存在下でも応答する遺伝子は,RARによって直接活性化される第一次の標的遺伝子と考えられる。このような遺伝子として,脊椎動物においても知られている標的遺伝子(Hox1やCyp26など)の他に,新規の機能未知の遺伝子などを含む多数の標的遺伝子を同定した。 (4)上記の研究成果を2報の英文総説にまとめ,国際誌に発表した。 (5)ホヤ胚を用いたRNAi法の確立を試みた。ホヤゲノムから単離したU6 snRNAプロモーターを用いてヘアピン型のsiRNAを発現させる方法を開発した。この方法を用いて,標的遺伝子の機能阻害実験を行った。
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