研究課題
基盤研究(C)
本研究では、Saccharomyces属酵母における種の形成機構の解明について、性的細胞認識を支配する性分化遺伝子群の進化の面からアプローチする。遺伝子発現制御の観点から捉えると、性分化遺伝子ファミリーは3つの階層から成るヒエラルキーを形成する。最下層には、性的細胞認識に関わる性的凝集素や性フェロモン及びそのレセプターなどの構造遺伝子群があり、その上層にはこれらの構造遺伝子の発現を制御している接合型遺伝子がある。さらに、最上層には接合型の転換を支配するホモタリズム遺伝子がある。これらの調節順位のヒエラルキーと各階層に属する性分化遺伝子の進化速度との間の相関関係を明らかにすることを目指す。つまり、性分化遺伝子ファミリーに関して、進化の過程での選択圧を測定して数値化する。性分化遺伝子ファミリーの進化的階層性が段階的性的細胞認識のシフトをもたらし、生殖隔離へと至ると考えている。平成15・16年度の2年間にわたる研究により、次に記す3項目の研究成果を得たので、ここに公表する。第一に、S.naganishiiからα接合型が分泌する性フェロモン(αフェロモン)の構造遺伝子を単離し、パン酵母S.cerevisiaeのそれとの比較解析を行った。その結果、コード領域はほぼ同じような構造を示したが、発現調節領域には種多様性が生じていることが明らかとなった。第二に、S.paradoxusのホモタリック基準株からホモタリズム遺伝子を単離し、その構造をS.cerevisiaeのそれと比較解析した。その結果、コード領域と発現調節領域が共進化していることが明らかとなった。第三に、S.naganishiiにおいてGA L遺伝子群の染色体上配置を調べたところ、これまでに研究されている他の出芽酵母の場合とは異なって、GAL10遺伝子がクラスターからはずれて転座していることが明らかとなった。
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