研究概要 |
配偶体型自家不和合性を有するオオムギ近縁野生種,Hordeum bulbosum(2x)における自家不和合性(S)遺伝子の単離を目的として,開花期の葯および雌ずいのmRNAを用いたAMF(AFLP-based mRNA fingerprinting)分析によって得られたS遺伝子型特異的クローンの大規模連鎖分析を実施した.そこで得られたS遣伝子座周辺の連鎖地図をオオムギ栽培種の染色体地図と比較したところ,S遺伝子座は第1染色体の動原体近傍にあり,その両側ではかなり広範な染色体領域にわたって組換えが抑制されていることが明らかとなった.さらに,この連鎖分析において最終的にS遺伝子座との組換え率0のクローン5種類が得られ,そのうち雌ずいおよび葯で特異的に発現するクローンがそれぞれ1つずつ得られた.まず雌ずい特異的クローン(HPS10)は,その全長cDNA配列の解析により,分泌型のシグナル分子様タンパク質をコードすること,ならびにアレル間で非常に高度な多型を示すことから,雌ずい側S遺伝子の有力候補と考えられた.そこで当該クローンのRNAiコンストラクトを作成し、アグロバクテリウム法およびパーティクルガン法を用いてH.bulbosumカルスへの導入を試みたが,形質転換体を得ることはできなかった.つぎに葯特異的クローン(I22-7)について,5'側領域のクローニングおよびシークエンス解析を行った結果,当該クローンはF-boxモチーフをもつタンパク質をコードすることが判明した.このことは,他の配偶体型自家不和合性植物(ナス科・バラ科)で最近同定された花粉側S因子がF-boxタンパク質である点から注目される.今後,このクローンの全長cDNA配列についてアレル間多型性の詳細な調査が必要である.最後に,二次元電気泳動法を用いて雌ずいタンパク質の解析を行い,S遺伝子型に特異的なタンパク質スポットの質量分析法による同定と当該タンパク質をコードするcDNA配列の解析を行った.この解析から,新たにS遺伝子座に緊密に連鎖する遣伝子が見出された.
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