研究概要 |
レンゲ萎縮ウイルス(MDV)は複数の環状1本鎖DNAからなる分節ゲノムを持つ.本研究は,個々のMDV-DNAのプロモーターを解析することによりウイルス感染増殖サイクルにおける転写機構の解明と遺伝子組換え作物の作出に有用な新規プロモーターの構築を目的とする.11種のMDVのゲノムDNA(C1-C11)のプロモーター領域についてGUSレポーターに連結したコンストラクトを作製し,形質転換体タバコにおける活性をその転写活性を詳細に調査した結果,C4,C5,C6,C7,C8,C9の6種のプロモーターが分裂組織および維管束において強い転写組織を誘導することが判明した.MDVは自然条件下ではマメ科植物などの維管束に局在して感染するが,形質転換したイネ植物体においてMDVのC8プロモーターは,遺伝子組み換え植物の作出に広く利用されているカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターと同等に,植物の維管束に限定せずに広い組織において転写活性を持つことが明らかとなり,MDV-C8プロモーターがイネなど食用作物の遺伝子組み換えにも実用上利用可能な活性を持つことが示された.また植物を形質転換する際には目的の導入遺伝子のほかに選抜用の抗生物質抵抗性遺伝子に連結させて植物へ導入し,カルス選抜を行なうが,C8プロモーターを35Sの代わりに選抜マーカー遺伝子に連結させて目的遺伝子を導入すると,より高率に形質転換体を得られることからが明らかになり,実用上高い有用性を持つことが示された. プロモーター活性の調査に加えて,MDVの宿主範囲を再調査した結果,既知のマメ科植物以外に新たにアカザ科のホウレンソウ,ナデシコ科のコハコベやブラナ科のArabidopsis thaliana等にMDVが全身感染することを確認した.こうした知見は未だ不明な点が多いMDVの生活環の解明に非常に有益であると考えられる.
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