研究概要 |
配偶体型自家不和合性を示すバラ科のリンゴは,不和合性関与タンパクとして花柱中に発現するS-RNaseが知られている。これまでの我々の免疫電子顕微鏡観察研究結果から,リンゴS-RNaseは花粉管の花柱への進入を感知した花柱細胞から細胞外の花粉管誘導マトリックスに分泌され進入花粉のS遺伝子型に関係なく花粉管内に取り込まれることが明らかになっている。本研究課題では,自家不和合性の分子機構の1つの仮定として,S-RNaseのRNase活性が自家花粉内でのみ作用し他家花粉内では不活性になると考えた。そこで花粉管内に入ったS-RNaseが花粉タンパク等との,相互作用によりRNase活性に変化が起こるかどうかを物質問相互作用観察とS-RNase活性試験により検討した。 [材料・方法及び結果] 1.リンゴ栽培品種スターキングデリシャス(SD)(S遺伝子型:Sc,Se)及びゴールデンデリシャス(GD)(Sa,Sb)を使用した。 2.リンゴ風船状蕾の花柱から従来法によりS-RNaseは,DE52,CM52,ハイドロキシアパタイトのオープンカラム,FPLCにより精製された 3.花粉から塩化セシウム法により全RNAを調製した。 4.RNase活性は,トルーラ酵母RNA・花粉RNAを基質として各種RNAと反応させ,酵素分解された酸可溶性RNAの260nmにおける吸光度で測定した。Se-RNaseは,両RNAに対してRNaseAよりも明確に低い比活性を示した。 5.精製したS-RNase(Se)をカラムマトリックス(HiTrap)に結合させアフィニティカラムを作製し,花粉タンパクからのS-RNaseとの相互作用タンパクの検索を行った。 6.アフィニティクロマトグラフィで得られた花粉由来結合タンパクのS-RNaseのRNase活性に対する影響を調べたところ,花粉のS遺伝子型に関わらず顕著な変化は観測されなかった。 7.表面プラズモン共鳴減少を利用するBiacore2000にリガンドとしてSe-RNaseを結合させ,自家及び他家花粉(SD及びGD)粗タンパクとの相互作用を観察したところ,他家花粉タンパクは自家花粉のそれに較べて圧倒的に大きな結合定数を与えた。 [結論] リンゴS-RNaseは,S遺伝子支配の花粉タンパクとの相互作用で自他の識別をしている可能性を示した。
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