研究概要 |
海洋ごみによる沿岸漁業への影響は,定置網や養殖生簀のような固定式網漁具だけでなく,底曳網のような動的漁具,漁獲対象をある程度限定する釣漁具,さらには磯場や海面での海藻採集といった様々な場面で発生している。例えば,漂流物との衝突,スクリュープロペラへのロープ類の絡まり,エンジン冷却水取入口へのフィルム状プラスチックの吸い込みによる機関停止といった小型漁船の航行障害については,各地で発生しており,漁業者にとって漂流,座礁といった生命・財産への危険性をはらんでいる。また定置網,養殖生簀,イカ釣りでは,流木,漁網,ロープなどの大型浮遊物によって直接的に損傷を受け,チリメンジャコ網,定置網,刺網,底曳網,海苔養殖網では,漁具に絡まったごみや漁獲物に混入したごみの除去といった作業量の増加および作業効率の低下といった被害が,海上だけでなく,陸上の水産加工施設でも発生していた。水産物への直接的な影響は,ゴーストフィッシング以外にも,混入物による漁獲物の損傷や商品価値の低下,漂流網による自生海草の損傷といった水産資源への被害も発生していた。これら被害は,漁船・漁具の破損や漁獲物の損傷といった損害費用が直接発生するものだけではなく,ごみの存在による漁場の変更,海藻や小魚に混ざった微小ごみの除去に伴う作業量の増加,回収ごみの処分費用の負担,漁港内のごみの除去作業や海岸清掃活動等のボランティア作業への参加等,恒常的でその費用が目に見えないものも多い。プラスチックごみは,海洋中に放置しておくと微細破片化し,発生源から広域に漂流拡散する。水産の現場では,今後この微小プラスチック破片の水産物への混入が,水産食品の品質や信頼に影響する深刻な問題となる可能性がある。
|