研究概要 |
わが国のシロザケ増殖を過去に振り返って評価するため,遺伝的および生態学的手法を開発・適用した。まず,ミトコンドリアDNA全塩基配列を決定した。次にタンパクコード領域を増幅するプライマーを複数設計し、茨城,岩手,アラスカ集団のND2領域の約1000塩基対の解析を行った。200塩基対ほどの短い領域の中に3つの変異サイトが見つかった。また,マイクロサテライトDNAに関しては,6つの遺伝子座を検討した。そのうちOke3に関しては変異性が高かった。さらに,岩手集団で最も多様性が高く,茨城集団がそれに次ぎ,アラスカ集団で最も低いという傾向があった。過去の鱗を用いたDNA抽出,PCR増幅手法に関しては、2年前の鱗に関しては,特に何もしなくても十分な量・質のDNAが回収されたが,l0年から30年前の鱗からは量的には十分であるものの,短いDNAしか回収されなかった。サケ資源の増殖期、高位安定期、低位安定期を含む1970年代中ごろ以降の鱗を用いた。1980年代の高位安定期における回帰親魚の小型化は海洋生活1年目と回帰前年の成長低下によるものであり、密度効果の影響であることが確認された。一方、最近の低水準期における成長パタンは、資源量が同程度である1980年代初頭のそれと大差ない程度まで回復していた。さらに,回帰率が大きく変化する前,すなわち1995年より前の回帰データを用いて,湾内の水温と回帰率の関係を検討したところ水温が高い方が回帰率が高い傾向があった。一方、湾外の親潮強度と回帰率の相関は見られなかった。また,年齢査定法を再評価する目的で,アラスカおよび岩手で鱗および耳石を採集し,それぞれによる年齢査定結果の相互比較を行った。今回の調査からは鱗の年齢査定は十分正確であるものと考えられた。鱗を用いて安定同位体比の経年変化を炭素、窒素、硫黄に関して検討した。硫黄を除き年度間で変動が認められた。
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