研究概要 |
本研究は,これまで明らかにされていない海産仔稚魚の健苗育成法に関する生理的基礎知見を得るため,様々な環境ストレスを負荷した魚におけるストレス蛋白質転写因子(HSF)等の各種ストレス指標の変化を検討するとともに,様々な海産仔稚魚の発育に伴うストレス応答の変化を調べた。まず,マダイ稚魚に高水温,低水温,高塩分,低塩分および低酸素ストレスをそれぞれ負荷し,HSF,グルココルチコイドレセプター(GR)およびコルチゾルの発現パターンを比較した。その結果,いずれのストレスでもコルチゾルは初期に増加してその後に低下するが,HSFおよびGRの比活性は,コルチゾルよりも長期に渡って増加する傾向が示された。また,マダイ稚魚に各種環境ストレスを負荷して高耐性魚と低耐性魚をそれぞれ選別し,各種ストレス指標の変化を比較したところ,HSFおよびGRの比活性は,高耐性魚で高くなる傾向がみられた。すなわち,HSF, GRおよびコルチゾルは健苗評価の良い指標になる可能性が示唆された。次に,マダイ,ヒラメ,トラフグ,クロマグロ仔稚魚の低酸素負荷に対するストレス応答の変化を調べた結果,どの魚種でも脊索屈曲期前後に耐性が低下し,代謝量やエネルギー代謝の増加に伴う活動余地の低下等が耐性低下に関与すると考えられた。さらに,マダイおよびヒラメ仔稚魚の各種環境負荷に対するストレス耐性の変化を調べた結果,どのストレスに対しても稚魚期以降に耐性の高まること,その時期からコルチゾルの分泌が顕著になること等が示された。そこで,ヒラメ仔稚魚にコルチゾルを浸漬して各種ストレスを負荷すると,コルチゾル,GRとともに一部のストレス耐性の増加傾向が観察され,ストレス応答が耐性増強に寄与する可能性等が示唆された。
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