研究概要 |
本研究は,制御環境下で確実に塊根形成を誘導できるサツマイモ栽培法を開発し,これを応用して植物体の内的・外的環境を種々の条件に設定できる実験系の確立を行ない,さらに分子生物学的手法を用いて塊根形成に関与する遺伝子の発現を解析するための手法の確立を目的とした. 平成15年度は,まず塊根形成誘導のための水耕箱を試作した.内部を塊根形成のための空気層と養水分吸収のための培養液層の2層構造とし,生育環境制御のために水耕箱をグロースチャンバ内に設置した.また養水分吸収部の温度制御のために水耕箱外のタンクで温度を調節した培養液を循環させた.一次根(節根)1本を有する植物体を本装置で栽培した結果,葉数および初期根径の大小にかかわらず,全個体が根の局所的な肥大を示し,内部組織の観察によって塊根が形成されたことを確認した.植物体の葉数は塊根形成後の肥大の良否に,初期根径の大小は塊根形成開始期の早晩に関係することが示唆された.さらに細胞分化方向の決定に関与する細胞壁結合型インベルターゼ遺伝子のサツマイモ根での発現解析を可能にした. 平成16年度は,形態形成に関与するとされる内的・外的要因について,塊根形成への影響を調べた.内的要因としては糖および植物ホルモン,外的要因としては根表面におけるガス交換阻害の影響調査を行なった.まず,塊根形成に及ぼす内的要因の影響調査のために,糖や植物ホルモンを根に局所的に処理する実験法を新たに確立した.これを用いてサイトカイニンが塊根形成開始のための重要な内的要因であることを明らかにした.外的要因については,根表面のガス交換阻害は根の肥大を抑制し,肥大が抑制された根では中心柱内の木化が進行することを明らかにした.また,細胞分裂を制御するサイクリンD遺伝子のサツマイモでの発現解析を可能にした. 以上,本研究によってサツマイモ塊根形成過程の解明およびその人為的な制御のための研究基盤となる実験系が提供できた.
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