研究概要 |
現在の肉用鶏は、最適環境下での生産性向上を目指して遺伝的に選抜されてきたため、ストレス環境に対する適応能が極めて低い。本研究では、斉一性のある高品質の家禽を無駄なく生産していくための盤石を築く第一歩として、家禽における白色筋の赤色化プロセス、すなわち「収縮の速い筋線維から遅い筋線維への筋線維型移行プロセス」を、ミトコンドリアの増殖・代謝スイッチとの連関で免疫組織化学と分子生物学の両面から解明した。具体的には、実験に4〜5週齢の白色レグホーン種雄を供試し、対照区(21℃)と寒冷区(4℃)を設定して、サンプリングを寒冷曝露後0.4,1,2,4,7日に行った。(1)鶏PGC-1α(avPGC-1α)遺伝子のORFをクローニングし、RealTimePCRによりその発現量を測定した。(2)NorthernBlot法により浅胸筋におけるavUCP, avANT, COX3のmRNA発現を測定した。(3)浅胸筋からSCミトコンドリアを単離し蛍光法によりミトコンドリアの膜電位を測定した。(4)寒冷馴化にともなう節線維型の変化を見るため、寒冷曝露10日後に各区の動物から浅胸筋を摘出し、ミトコンドリアに特異的な酵素、NADH脱水素酵素とATP合成酵素を酵素組織学的に染色し、寒冷馴化にともなう筋線維型の移行を観察した。その結果、(1)クローニングしたavPGC-1αは、796アミノ酸残基からなり、PGC-1ファミリーの共通配列(LXXLL motif, SR domain, RRMなど)を含んでいた。その発現量は寒冷曝露1日後から有意に増大し、7日後においても高い発現を保っていた。(2)avUCPとavANTmRNA発現は寒冷曝露後2日目をピークに有意に増加し、寒冷曝露7日後まで高い発現が維持された。(3)寒冷区のミトコンドリアでは、i)BSA添加にともなう膜電位の回復、ii)ラウリン酸による脱共役効果の促進が認められた。(4)寒冷馴化によって、IIb型の浅胸筋が、ミトコンドリアをより豊富に含むIIa型の筋線維へと移行することが明らかになった。 本研究により、鶏における寒冷馴化にはavPGC-1による転写調節機構が深く関与しており、これがミトコンドリアの増殖・代謝スイッチの本質であると考えられた。
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