研究概要 |
本研究において,モノアルコールなどの単一官能基を有する化合物に適用可能な新しい絶対配置決定法を開発した。新規CD発色試薬の開発と絶対配置決定則の考案:新規CD発色試薬として3-cyanocarbonyl-3'-methoxry-carbony1-2,2'-binaphthalene1をデザインしその簡便な合成法を確立した。それを用いて種々のキラル2級アルコールを誘導体化したところ,アルコール部の中心不斉がビナフチル部へと伝達されコンフォメーショナルキラリティーを持つようになり,誘起CDが観測されることを見出した。それら誘導体のCDスペクトルにおいて何れも分裂型コットン効果を示し,更に励起子カイラリティーの符号と絶対配置との間によい相関が認められた。即ち,用いたアルコールを2群,カルビノール炭素の隣接位に不飽和結合あるいは電気陰性原子を持たないもの(グループA)と持つもの(グループB)に分類すると,グループAでは(R)-アルコールの励起子カイラリティーの符号が負,(S)-アルコールでは正を示した。一方,グループBではそれとは逆の傾向を示した。これらの知見を基に,カルビノール炭素の隣接位の置換基の嵩高さおよび順位則における優先順位を考慮した新しい絶対配置決定則を考案した。誘起軸性キラリティーの起源:上記ビナフチルエステルにおいて観察された誘起軸性キラリティーの起源が,熱力学的支配によるものであることが,詳細なNMR実験により明らかとなった。誘起CD励起子法の開発:上記のビナフチル誘導体について分子力場計算を行ったところ,上述のグループの区別に関係なく,最安定配座においてナフタレン発色団の長軸方向の電気遷移モーメント間の"ねじれ"の方向と励起子カイラリティーから予測される方向が一致することが明らかとなった。これらの知見に基づいて「誘起CD励起子法」を開発した。誘起CD励起子法の生理活性天然物への適用:「誘起CD励起子法」を代表的なインドールアルカロイドであるyohimbineに適用したところ,得られた誘導体のCDスペクトルにおいて分裂型CDを示し,励起子カイラリティーの符号は正であった。また,C17位がS配置のものおよびその鏡像体について分子力場計算を行ったところ,時計回り(+)および反時計回り(-)の"ねじれ"を持つジアステレオマーの存在比はそれぞれ(+)/(-)=56/44,44/56であった。よってyohimbineのC17位の絶対配置はSとなり,X線結晶解析の結果と一致したことから,本法の有用性が確認された。
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