研究概要 |
ベンゼン環などの芳香環がメタ位またはパラ位で架橋された化合物はアンサ型化合物と総称される.ピリジノファン型クラウンエーテル,シクロファン,アンサマイシン系抗生物質に代表されるように,アンサ型化合物は生物機能性あるいは化学機能性化合物として重要な地位を占めているが,架橋構造による大きな環ひずみのため,それらの合成は容易ではなかった. 著者らはアシルケテン先駆体の極めて簡便な合成法を見出すと共に,これら先駆体を沸騰クロロベンゼン中加熱分解することにより定量的にアシルケテンを生成させることに成功した.そして,ケテン体の極めて高い反応性を活用し,その分子内付加環化あるいはアシル化を活用し,ひずみをもつアンサ型化合物を効率良く合成する手法を開発した.すなわち,1,3-ジオキシン-4-オン類を加熱してケテンを生成させ,分子内の水酸基とケテン部をラクトン化させてマクロラクトンを合成できた.この方法により合成された面性不斉β-ジケトン等価体はキラルアミンの光学分割試薬として優れていることを実証した.そして,この手法で得られた光学的に純粋なイミダゾリウムカルベンを創製することに成功した.この不斉カルベンはキラルアルコールの速度論的分割触媒として有用なことも実証した.また,ビスアシルケテンの分子内付加環化を利用し,従来大きなひずみのため合成困難であった12-クウンン-5-型ピラノファン,ピリジノファンの合成にも成功した.これらヘテロアンサ型化合物はリチウムイオンの選択的ホスト分子としての機能をもつと期待される.近年注目されている金属錯体触媒による閉環メタセシス法を架橋ピロン体の合成に応用した結果,架橋鎖が短い場合はその収率は大きく低下することが分かった.この結果は,ケテン体の分子内付加環化反応がアンサ型化合物合成法として最も優れていることを示す.
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