研究概要 |
GPIアンカー型タンパク質は,リン酸エタノールアミンを介してトリマンノース,グルコサミン,及びホスファチジルイノシトールが結合した膜タンパク質で,脳・神経系では,神経網形成などにおいて重要な役割を担っていると考えられている.GPIアンカー型タンパク質には複数のN結合型糖鎖が付加し,発生や成長に伴って変化することが示唆されているが,膜タンパク質のため精製が難しいことや,分子構造が複雑であることなどから,糖鎖構造が明らかにされているタンパク質は少ない.そこで,本研究では,ラット脳より脂質部分を切り離した可溶性GPI結合タンパク質をSDS-PAGEで分離し,LC/MS^nを用いてThy-1,LAMP,OBCAM,NTM,kilonの部位特異的糖鎖構造を解析した. 生後3週間のラットの脳からGPI結合タンパク質を分画してSDS-PAGEを行い,20-25kDaのバンドにThy-1,また,45-85kDaのバンドにLAMP,OBCAM,NTM,及びkilonが泳動されていることを確認した.はじめに,20-25kDaのバンドから1%SDSを用いてThy-1を抽出し,トリプシンで消化した後,LC/MS^nを行い,Asn23及び98には高マンノース型糖鎖,混成型,及び2本鎖を中心とした複合型糖鎖,またAsn74にはフコシル複合型糖鎖が主に結合していることを明らかにした.つぎに,45-85kDaのバンドからLAMP,OBCAM,NTM,及びkilonをまとめて抽出し,混合物のままトリプシン消化した。タンパク質混合物消化物のLC/MS^nを行い,各タンパク質の糖鎖付加部位ごとの糖鎖の特徴を明らかにすることができた.その結果,この4つのタンパク質はペプチド部分だけでなく,糖鎖付加も類似していることが明らかになった.例えば,N末側には共通して高マンノース型糖鎖,また,C末にはルイス型糖鎖が集中して結合していた. 今後は,病態マウス,または成長段階の異なるマウスのLAMP,OBCAM,NTM,及びkilonの糖鎖を解析し,疾患や神経網形成と糖鎖の関係の解明につなげたいと考えている.また,今回確立したSDS-PAGEとLC/MS^nを用いた部位特的糖鎖解析法を,他のGPI結合タンパク質を含む様々な糖タンパク質の糖鎖構造解析に利用していきたい.
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