研究概要 |
神経細胞に特異的に発現するTRPチャネルについて,以下のような新知見を得た。 (1)ラット大脳皮質初代培養ニューロンに過酸化水素を適用するとカルシウムイオンの流入に続いて細胞死が惹起された。この初代培養ニューロンにおいてTRPM2分子が発現していることを免疫染色によって確認し,公開されているラットゲノム部分塩基配列とマウスおよびヒトTRPM2遺伝子情報を元にして,ラットTRPM2遺伝子をクローニングした。クローニングしたラットTRPM2を動物細胞ないしXenopus卵母細胞に強制発現させたところ,過酸化水素適用によるカルシウムイオンの流入と細胞死に加えて,ADPリボースの細胞内適用によるカチオン電流が観察された。培養ニューロンにおけるTRPM2の発現をsiRNAによって抑制したところ,過酸化水素によるカルシウムイオンの流入と細胞死はいずれも抑制された。また,ADPリボースポリメラーゼ阻害薬の適用によって過酸化水素誘発ニューロン死は抑制された。以上の結果から,TRPM2は過酸化水素による神経細胞死において決定的な役割を果たしていることが明らかになった。 (2)脳組織に特異的に発現しているTRPC4およびTRPC5の開口機構についてXenopus卵母細胞発現系を用いて検討した。TRPC5がGq共役受容体の刺激に連関したカルシウム流入を起こすチャネルとして機能するのに対して,アミノ酸一次配列が極めてよく似ているTRPC4はチャネルとして機能しなかった。GFPタグをつけた融合チャネルを用いて共焦点顕微鏡で細胞内局在を調べたところ,TRPC4,5いずれのチャネルも細胞内分布と膜の局在に差異は見られなかった。そこでアミノ酸配列を部分的にすげ替えるキメラチャネルを作成して,TRPC5のみが開口するドメインの特定を試みたところ,N末端領域から最初の細胞膜貫通部位までの間が開口に必要であることが明らかになった。現在,点変異チャネルを作成して,アミノ酸の特定を急いでいる。
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