研究概要 |
温度応答性ポリマーは、下限臨界溶解温度以下では溶解度が増し、下限臨界溶解温度以上では溶解度が減少して凝集する性質を持つ。本研究では、温度応答性ポリマーの性質を利用して、化学物質に暴露した細胞が発現誘導を増減させるタンパク質を指標とし、環境汚染物質の有害影響を検討することを目的とした。 温度応答性ポリマーは、側鎖にブチルメタクリレート(BMA)又はN,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAAm)を導入したN-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)を共重合させて作製した。PNIPAAm(分子量:10,000)、P(NIPAAm95%-co-BMA5%)(分子量:5,000)、P(NIPAAm95%-co-BMA5%-DMAPAAm5%)(分子量:5,000)、P(NIPAAm85%-co-BMA5%-co-DMAPAAm10%)(分子量:5,000)の4種の温度応答性ポリマーを比較検討した結果、PNIPAAm(分子量:10,000)が結合能および結合性において最も優れていることが明らかとなった。 ヒト白血病由来浮遊細胞HL60株を好中球様細胞へ選択的に分化誘導する培養系を用い、分化時に特異的に誘導されるCD18(インテグリン)を指標タンパク質として、環境汚染物質の分化誘導に対する影響を検討した。4日間暴露後の細胞致死率が約20%となる濃度で分化誘導開始時から継続暴露した結果、検討した51物質の中で、ベンゾ[a]ピレン等数物質の暴露により発現誘導量の低下が認められた。しかし、有機リン系農薬オキソン体や内分泌をかく乱する恐れのある化学物質、消毒副生成物等、低濃度の環境汚染物質の暴露により発現誘導量が増加することが明らかとなった。これらのことより、環境汚染化学物質の多くが、免疫系への分化誘導時に作用して免疫応答亢進作用を示唆する結果を得ることができた。
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