研究概要 |
コンビナトリアルケミストリーやハイスループットスクリーニングといった網羅的な化合物合成・評価が医薬品探索の主流になる中で,化合物のライブラリーを如何に効率よく設計するかが重要な課題となっている.とりわけ薬物動態は医薬品開発における重要な問題であり,トランスポータを介した薬物輸送等も含め,化合物の吸収や排泄に関わる分子構造的特徴を明らかにする方法論が望まれている.判別分析、ニューラルネットワークなど従来のパターン認識アルゴリズムでは、学習用データにおいて各化合物のカテゴリーを知る必要があるが、基質でないことを確認した情報は極めて乏しく、従来法による解析では適切なモデルを構築することができない。そこで、目的化合物を判別する解析法として,化合物特性空間という概念を導入した。さらに,その特性空間の中で目的化合物群がクラスターを形成していると考え、化合物全体の変動を最大にしつつ目的化合物の群内変動を最小にすることによって,識別に関する情報損失を最小に抑えながら低次元空間にマッピングできることを見出した。本問題は、数学的には一般化固有値固有ベクトル問題に帰着することが証明された。 本方法を用いて,P糖タンパク質(P-gp)の基質となる化合物の特徴解析を行った。その結果,化合物のトポロジカル構造記述子を使って,生理活性をもつ8,000弱の化合物を全体空間の約1/60にしか分布しないことを見出し,P-gp基質を判別できることを明らかにした。さらに,この方法を経口医薬品のマッピング解析に応用したところ,Available Chemical Directoryに収載される一般有機化合物130,000種の特性空間の約1/12に分布することを見出した。以上のように,本方法の開発によって,目的化合物の構造的特徴について視覚的にその共通性を捉えることが可能となり,創薬初期の探索研究を合理的推進に大いに貢献するものと期待される。
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