研究概要 |
虚血や無呼吸により脳への酸素供給の低下が続くと、人や動物はあえぎ呼吸(gasping)と呼ばれる急激な立ち上がりと大きな換気量、遅い呼吸回数を特徴とする呼吸パターンを示して自発的に生命維持を図る。しかしgaspingの中枢制御機構には不明の点が多く、分子基盤も明らかでない。 本研究において、ATP感受性カリウム(K_<ATP>)チャネルのKir6.2サブユニットを欠失させた(KO)マウスが断頭時にほとんどgaspingを示さないなど、野生型マウスに比しgasping回数が少なく、持続時間も短く、潜時が長いことが判明した。麻酔下での低酸素負荷実験でも、KOマウスは正常呼吸からgaspingに至る潜時が野生型に比し有意に長く、持続時間が短かく、更に横隔神経活動記録から、KOマウスは低酸素負荷に対して呼吸停止直前の2-3回の呼吸を除くとgaspingを特徴づける横隔神経活動を示さず、多くの場合正常呼吸型神経活動で対応することも明らかとなった。そこで無麻酔下で低酸素を負荷し、胸郭等の動きをピエゾ素子で計測しつつ呼気中の炭酸ガス分圧の変化を記録したところ、麻酔下同様KOマウスは正常呼吸型からgaspingへの切り替えに障害を認めた。 一方脳のK_<ATP>チャネルは、中脳黒質網様部(SNr)のGABA作動性ニューロンに最も高濃度に発現し、脳内の低酸素の感知に際立って重要な役割を果たすが、低グルコースの感知には必ずしも鋭敏でないことが今回明かとなった(Yuan, et al, Neurosci Lett, 2004a, b ; Yamada et al, J Mol Cell Cardiol, in press)。以上より、脳のK_<ATP>チャネルは特に低酸素誘発性gaspingの制御に必須と考えられ、SNrとの関連が注目される。以上は第82回日本生理学会にて公表し、すみやかな論文発表をめざす。
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