研究概要 |
本研究課題では,細胞膜PIP_2による心筋I_<Ks>の抑制作用の生理的意義を検討・解明する目的でモルモット単離心房筋細胞にパッチクランプ法を適用して実験を行い,以下に示す成果を得た. 1.細胞外ATP(【greater than or equal】0.1μM)はP2Y受容体刺激を介してI_<Ks>を増大させるが,そのシグナル伝達機構としてGq-ホスホリパーゼC(PLC)の活性化による細胞膜PIP_2の減少が主要な役割を果たしている.すなわち,細胞膜に存在するPIP_2はI_<Ks>に対して持続的に(恒常的に)抑制作用をおよぼしており,P2Y受容体-Gq-PLC経路の活性化に伴う細胞膜PIP_2濃度の減少がI_<Ks>の増大に結びつくと考えられた. 2.α_1受容体のアゴニストであるフェニレフリン(PHE)はGq-PLC経路を活性化してI_<Ks>を増大させることが明らかにされている.このPHEによるI_<Ks>の増大作用にもGq-PLCを介したプロテインキナーゼC(PKC)の活性化に加えて,細胞膜PIP_2の減少も関与している. 3.心筋細胞を低浸透圧溶液に曝すと細胞は膨張しI_<Ks>が増大することが知られているが,その作用にも部分的にではあるが細胞膜PIP_2の減少が関与している. 4.P2Y受容体刺激により活動電位持続時間(APD)は2相性に短縮するが,初期相(ATP投与1分以内)はムスカリン性カリウムチャネル(I_<K,ACh>)の活性化が,後期相(ATP投与1分以降)はI_<Ks>の増大が主に関与している.すなわち,細胞膜PIP_2はチャネル(I_<Ks>およびI_<K,ACh>)活性の修飾を介して心筋APDの調節にも関与している. このように,細胞膜PIP_2による心筋I_<Ks>の抑制作用は,P2Y受容体やα_1受容体刺激によるI_<Ks>の増大作用に密接に関与していること,さらには細胞膜PIP_2はI_<Ks>やI_<K,ACh>の制御を介して心筋細胞のAPDの決定に重要な役割を果たしていることが明らかとなった.
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